不動産を貸し借りしていれば必ず入退去が発生します。退去の際には入居者と立ち合いを行って、お互いに貸した物件のチェックを行って敷金の精算を行うことがほとんどですが、賃貸借でトラブルが多いのがこの敷金の精算(原状回復)になります。この原状回復とはどのような考え方でいるのがよいでしょうか。説明します。
原状回復とは
原状回復とは「原状:初めにあった状態。もとのままの形態。(大辞林)」を指します。初めにあった状態ということですから、貸した当時の状態に戻すということになりますね。例えば新築で入居した場合、設備として入っているエアコンやコンロ、洗面台等はすべて新品にして返さないといけないのでしょうか。
答えはNOです。借家契約では、退去時の原状回復義務を特約として付与していることが多いですが、「本来存在したであろう状態」にまで戻せばよく、借りた当時の状態にする必要はないとされています。つまり、通常に使用をして起こる経年劣化があってもそのまま返還すればよいということになります。
どのような基準で考えればよいか
国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」というものを公表していますが、賃借人が負担すべき原状回復費用は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」の範囲に限るとしていて、東京都のいわゆる東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)では、重要事項説明の際に、借主に対して退去時の通常損耗等の復旧は貸主が行なうことが基本であること、入居期間中の必要な修繕は貸主が行なうことが基本であること、契約で借主の負担としている具体的な事項などを書面で説明するように指導されています。
私共ではよく、レンタカーを想像してくださいと説明しています。例えばレンタカーを1ヶ月借りたと仮定して、返すときにエンジンオイルやタイヤを新品にして返す必要がありますでしょうか。普通に使っていればエンジンオイルは多少汚れますし、タイヤも摩耗します。それでもタバコを吸ってシートに穴を空けたり、車をぶつけて凹ましてしまったり、故意過失で発生した損害は直さなければなりませんね。通常では考えられないような使い方(レースに参加する。ものすごい距離を走りまくる等)であれば、エンジンオイルの交換やタイヤの交換も求めれられるかもしれません。
まとめ
このように賃貸借において基本的には普通の使い方(常識の範囲内)であれば経年劣化を考慮しないといけないので費用が発生しない(貸主は費用を請求できない)こと、借主・貸主ともに原状回復の定義を認識しておくのがトラブルを避けるために必要なことだと思います。賃貸借でも店舗や事務所はまた話が変わってきます。この話はまた別の機会に説明したいと思います。敷金の精算等でお困りの際には私どもまでご相談ください。
最後に国土交通省が公表している原状回復のポイントを転載しておきますので、ご参考になさってください。
●ガイドラインのポイント
(1)原状回復とは
原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。
⇒ 原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化
(2)「通常の使用」とは
「通常の使用」の一般的定義は困難であるため、具体的な事例を次のように区分して、賃貸人と賃借人の負担の考え方を明確にしました。(以下の図参照)
賃貸住宅の価値(建物価値)
A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
⇒ このうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしました。
(3)経過年数の考慮
(2)で解説しているBやA(+B)の場合であっても、経年変化や通常損耗が含まれており、賃借人はその分を賃料として支払っていますので、賃借人が修繕費用の全てを負担することとなると、契約当事者間の費用配分の合理性を欠くなどの問題があるため、賃借人の負担については、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させる考え方を採用しています。
(4)施工単位
原状回復は毀損部分の復旧ですから、可能な限り毀損部分に限定し、その補修工事は出来るだけ最低限度の施工単位を基本としていますが、毀損部分と補修を要する部分とにギャップ(色あわせ、模様あわせなどが必要なとき)がある場合の取扱いについて、一定の判断を示しています。